「何ですって!」

病み上がりの体でへーこら任務から帰ってきたと思ったらサスケがあっさり里抜けしてやがりました。
あほかーーーっ!!あんっのばかたれがっ!!と思ってももう遅い。
五代目火影が次の任務は、なんて鬼畜めいたことを言ってきたがひとまずナルトたちを追いかける方が先だ。
パックンに匂いを追ってもらって必死になって追いかけたけど、サスケは行ってしまった。ただ一つ、救いだったのはナルトを殺して行かなかったことだ。病院の屋上でやりあってた時には、本当にお互い死んでもおかしくない程の力のぶつかり合いだったから。
スリーマンセルの仲間同士で殺し合いなんてそんな不毛なこと、させたくなかったのにな。
かつて大蛇丸と自来也様が同じような境遇に立たされたことがあったと聞く。自来也様は、一体どんな気持ちで大蛇丸の背中を見送らなくてはならなかったのだろう。
背中におぶっていたナルトが意識を取り戻して開口一番にサスケのことを聞いてきたが、答えられるはずがなかった。
慰める言葉すら瞬時に思いつかなかった。何を言ったとしても、サスケは戻ってこないのだから。
ナルトを病院に運んで、雨でぐしょぐしょになってしまった服を着替えると、俺は火影の言っていた任務を受け取るために火影の執務室に行った。
だがそこに火影はいなかった。
あー、そうだよ、確か下忍たちもかなり大変で重体の奴らもいるんだっけか。そいつらの治療にあたっているんだろうな。
みんな、必死になってサスケを連れ戻そうとしてくれたんだなあ。
ごめんなあ、ふがいない上司で、まったく会わせる顔がないよ。もう少し落ち着いたら、一人一人に礼でも言ってこようかな、いや、それこそ見当違いだな。みんな思うところは一緒だったはずだ。一緒に赴いてくれたのも、重傷を負うまで闘ってくれたのも、ひとえにそうしようと自分で思ったからやったんだ。でなければとっくに逃げ帰ってきてる。
アスマんところのも、紅のところのも、ガイのところのも、みんな、よくやってくれた。
ありがとう。
俺は一人、ちょっと感傷的になったが、彼らのためにもバリバリ任務こなさないとねえ、と受付に向かった。本来ならばS級任務は直接火影から拝命するのがしきたりなのだが、緊急の場合はやむを得ずに受付でもらうことになっている。ま、問題はないでしょ。確か要人暗殺の任務だったかなあ?さっさと終わらせてしまおう。
受付に入ると俺に視線が集まった。ん?なんだ?と思っていたら、近くにいたゲンマが手を挙げて挨拶してきた。

「お疲れ様です、カカシさん。」

「あー、お疲れ、どうしたのその包帯。ゲンマらしくないじゃない。」

ゲンマはちょっと痛々しい恰好になっていた。任務で負ったのだろうか?動き回っている所を見るともう大丈夫なようだけど。

「これはサスケを連れ出した音忍たちとかち合わせた時にしくじっちまいましてね。胸くそ悪い奴らでしたよ。全員が何かしらの呪印を施されてました。」

大蛇丸、部下ですらその毒牙にかけるか。どこまでも人であらざる所行をする男だ。

「悪いね、俺ん所の部下のせいで。」

「カカシさんが謝るこっちゃないでしょ。でも、そういう風に思わない奴らもいるんで、あんまり気にしないでやって下さいよ。」

ゲンマはそう言ってそれじゃ、任務がありますから、と受付を出て行った。
なるほど、ちらちらとこちらを見る視線はサスケをみすみす里抜けさせてしまったふがいない上忍師の俺を冷視するためのものだったか。
残念ながら俺にその類の侮蔑だとか敵意だとかの視線は有効じゃないよ。なんだかんだで長生きしていれば、忍耐力がついたと言うか諦めたと言うか。
ま、親父の件でも、オビトの写輪眼でも、しばらくすれば収まるって分かってるし。
俺は受付に進んだ。

「俺宛の火影からのSランクの任務があると思うんだけど。」

そう言えば受付係は少々お待ち下さい、と巻物を調べる。そう言えばイルカも任務をしているのだろうか。アカデミーは休校状態だし、受付にいないとなると任務か、里の復興作業の手伝いをしているんだろうなあ。
俺のこと、呆れちゃったかなあ。こんな忙しい時にのんびり敵にやられちゃってサスケまで里抜けされちゃって。
でも、まあ、もう近づかないって決めたから、会いに行くことはできない。それなのに気にして、俺ってほんと、女々しいよなあ。

「写輪眼のカカシと言っても大したことないな。」

ぼそりと聞こえてきたのはあまり聞き覚えのない声で、特に詮索するつもりもないことだし、まあ、そんなことはどうでもいいか。と意識を逸らした。
気が付けば目の前にいた受付係が顔をしかめている。ああ、あんたにも聞こえちゃったか。やな気分にさせちゃったな。

「任務、見つかりました?」

意識を逸らさせるために軽い調子で声をかけた。

「あ、はい、これです。」

受付係は今気が付いたかのように、持っていた依頼書を俺に向かって差し出した。
俺はその場でふむふむと読み込んでいく。Sランクともなると機密が漏れるとまずいので情報はその場で暗記しなくてはならない。
俺は読み終わった依頼書を火遁で燃やした。

「ありがと、じゃ。」

俺はその場から立ち去ろうとした。が、出口付近で数人の忍びが俺をじっと見つめていた。あまりいい感じじゃないな。
俺は無視して通り過ぎようとした。

「おい、お前自分の部下を里抜けさせるのこれで何度目だ?」

出口付近でたむろしていた男たちの中の一人がそう言ってきた。
ああ、そう言えばイタチも俺の部下だったんだな、つまりこれで二度目か。しかも兄弟そろってか。まったく、世話のかかる兄弟だねえ、お前たちは。
しかしどうしてこいつ、俺の暗部時代のことまで知ってるんだろう?誰かがリークしてるのか?ま、関係のないこった。ゲンマの言うとおり、気にしないでいこう。
俺は再び歩み出した。

「おい、待てよ、部下の管理能力はゴミ以下のくせに飄々とSランクなんか受けやがって。」

ああ、問題はそこだったか。だったら俺の代わりに行ってきてほしいよ。俺だって夜通しで疲れてるんだから。なーんて言ったら怒りが増大するだろうなあ。

「任務に行かないといけないから、言いたいことはもう少し状況が緩和されたらにしてくれない?」

俺はそう行って今度こそ受付を後にした。
まったく、嫌味を言う暇があるんだったら任務の一つでもこなせっての。
ああ、でも、親父の時の嫌がらせの時は四代目が、オビトのことで憎悪の言葉をかけられた時にはイルカが抱きしめてくれていたんだっけ。なんだ、全然平気じゃなかったんだなあ。あれから数年。大人になったって、自分の馬鹿さ加減は変わらない。
俺はついつい慰霊碑の前に立っていた。何かあるとここに来ちゃうんだから、甘ったれた感情はまだまだ直らないらしい。
オビトに泣き言の一つでも言うと少しはすっきりしたのか、俺は晴れあがった空の元、暗殺するための任務へと向かった。